建設業許可は事業の信頼性を高めて、より大きな工事を受注するために必要になってきます。
建設業許可を取得するには、要件を満たす「人材」を確保する必要がありますが、安易に、他社などから名前だけを借りて許可を取ろうとすると、違法行為の「名義貸し」に該当してしまって、厳しい罰則を受けることになりかねません。
「名義貸し」とは何か、そのリスク、そして許可取得に必要な人材を適法に採用する場合のポイント(要件など)を詳しく解説します。

建設業許可の名義貸しとは
建設業許可における名義貸しとは、建設業許可を取得している会社や個人が、実際には許可を持っていない別の会社や個人に対し、その許可を「貸す」行為のことです。
建設業許可を取得するために必要な「経営業務の管理責任者」や「営業所技術者(旧・営業所専任技術者)」の資格や経歴を持つ者の名前や資格を「かたち・名前」だけ借りて、実際には当該の者が関与していない状態で許可を取得や維持することです。
- 建設業許可の名義貸しの事例としては次のものがあげられます。
- 他社の社長に名前だけ貸してもらって経営業務の管理責任者として申請する。
- 他の建設業者から有資格者を一時的に人事名簿上だけ雇用して技術者とする。
- 契約書上の名義だけを貸して、実際の工事は別の業者が行う。
- 建設業許可の要件(経営業務の管理責任者や営業所技術者など)を満たしていない業者が、それらの要件を満たす別の会社から名義を借りて許可申請を行う。
これらの行為は、建設業法第3条の「不正な手段による許可の取得」に該当して、違法行為となります。
建設業許可は、建設工事の適正な施工を確保して発注者を保護するための制度ですから、許可を受けた業者自身が責任を持って工事を施工することが前提となってますので、名義貸しはこのような制度にとって、違法となり禁じられています。
名義貸しの罰則
名義貸しが発覚した場合は、次のような行政処分および刑事罰が科されることがあります。
行政処分
・建設業許可の取消し(建設業法第29条)
・指示処分・営業停止命令
刑事罰(建設業法第50条・第51条など)
・懲役または罰金
・情状によっては両方の併科
名義を貸した本人(経営業務管理責任者や技術者)も処罰の対象となる可能性があるため、貸した側も借りた側もリスクが大きくなることもあります。
建設業法第50条
第五十条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第五条(第十七条において準用する場合を含む。)の規定による許可申請書又は第六条第一項(第十七条において準用する場合を含む。)の規定による書類に虚偽の記載をしてこれを提出した者
二 第十一条第一項から第四項まで(第十七条において準用する場合を含む。)の規定による書類を提出せず、又は虚偽の記載をしてこれを提出した者
三 第十一条第五項(第十七条において準用する場合を含む。)の規定による届出をしなかつた者
四 第二十七条の二十四第二項若しくは第二十七条の二十六第二項の申請書又は第二十七条の二十四第三項若しくは第二十七条の二十六第三項の書類に虚偽の記載をしてこれを提出した者
2 前項の罪を犯した者には、情状により、懲役及び罰金を併科することができる。

経営業務の管理責任者の他社からの採用の要件
経営業務の管理責任者は、自社に候補者がいなければ、他社から採用することもできて、他社からの採用でも要件さえ合致すれば、経管として認定されます。
建設業許可を取得するには、営業所ごとに「経営業務の管理責任者(経管)」が必要になります。
経営業務の管理責任者とは、企業が事業活動を適切かつ合法的に運営するための経営上の責任を負う人物のことです。建設業においては、許可取得の要件として経営業務の管理責任者が在籍する必要があります。
採用で確認すること
・常勤性
採用後、申請会社に常勤(他社と兼業不可)できるかどうか、常勤が必要になります。
・経験
過去5年間にわたって建設業の経営業務を直接補佐した経験などを証明する必要があります。
・役職・職責
当該の会社で単なる事務員では認められず、「事業の運営に携わる地位にあった」ことが必要になります。他社の社長経験者を経管として採用する場合であっても、雇用契約書や就業実態、役割分担が明確でなければ、名義貸しと見なされてしまうことがあります。
国土交通省のホームページより
許可を受けようとする者が法人である場合には常勤の役員のうちの1人が、個人である場合には本人または支配人のうちの1人が次のいずれかに該当することが必要です。
1. 建設業に関し5年以上経営業務の管理責任者としての経験を有する者であること。
2.建設業に関し5年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者(経営業務を執行する権限の委任を受けた者に限る。)として経営業務を管理した経験を有する者であること。
3.建設業に関し6年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者として経営業務の管理責任者を補佐する業務に従事した経験を有する者であること。
営業所技術者(旧・専任技術者)の他社からの採用の要件
営業所技術者(旧・専任技術者)についても、建設業許可を取得するにはが必要になってきます。営業所技術者も他社から採用することもできて、他社からの採用でも要件さえ合致すれば、営業所技術者として認定されます。
営業所技術者(旧・専任技術者)とは、建設業許可を取得するために、各営業所に配置が義務付けられている技術者です。営業所単位で建設工事の請負契約を適正に締結して、工事が契約通りに実行されるように技術面からサポート・管理する役割を担います。
許可業種ごとに必要となるこの人材も、他社から採用する場合は要件が設けられています。
採用の要件
・資格・実務経験の証明
対象業種に関して下記のような事柄が必要になってきます。
国家資格(たとえば一級建築士、施工管理技士など)を有するか、実務経験10年以上を証明できること。
常勤性の確保については営業所に常勤していなければならず、他社との兼任はできません。
実態(常勤)の確認として雇用契約書、出勤簿、給与明細などによる実態の証明が必要になります。
注意点
他社から引き抜いて来てもらった営業所技術者であっても、実態が伴っていなければ(常勤でなければ)「名義貸し」と判断されてしまいますので注意が必要です。
仮の一時的な名簿上の在籍ではなく、現場管理・技術指導に関与している必要があります。
国土交通省のホームページの一般建設業の許可の場合の要件です。
国土交通省のホームページより
(一般建設業の許可を受けようとする場合)
[1]-1指定学科修了者で高卒後5年以上若しくは大卒後3年以上の実務の経験を有する者
許可を受けようとする建設業に係る建設工事に関して、高校卒業後5年以上若しくは大学卒業後3年以上の実務経験を有し、かつ、それぞれ在学中に許可を受けようとする建設業に係る建設工事ごとに指定された学科(指定学科)を修めている者[1]-2指定学科修了者で専門学校卒業後5年以上実務の経験を有する者又は専門学校卒業後3年以上実務の経験を有する者で専門士若しくは高度専門士を称する者
・許可を受けようとする建設業に係る建設工事に関して、専門学校後5年以上の実務経験を有し、かつ、在学中に許可を受けようとする建設業に係る建設工事ごとに指定された学科(指定学科)を修めている者
・許可を受けようとする建設業に係る建設工事に関して、専門学校後3年以上の実務経験を有し、かつ、在学中に許可を受けようとする建設業に係る建設工事ごとに指定された学科(指定学科)を修めている者のうち、専門士又は高度専門士を称するもの
建設業許可の取得は、手間と時間のかかる手続きが多くあります。わからないことがありましたら、静岡の行政書士事務所アラインパートナーズにご相談ください。