今回は、建設業許可を取得するために必要な条件7つのうち、特に重要な条件の一つ「経営業務の管理責任者」(通称、経管(けーかん))について、具体的な事例を交えてわかりやすく解説していきます。
参考ですが、令和2年10月に改正建設業法が施行され、建設業法から「経営業務の管理責任者」という文言がなくなり、「経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有する者」(経営業務の管理能力者)という言葉になっていますが、その目的は条件の緩和であり、内容や本質的部分はほとんど変わっておりません。(本記事でも「経営業務の管理責任者」で話を進めていきます。)
【今回の記事のポイント】
○経営業務の管理責任者とは?
○経営業務の管理責任者の条件とは?
○経営業務の管理責任者の常勤性(じょうきんせい)とは?
経営業務の管理責任者とは?
→ 建設業許可を取得するには絶対必要な人です!
国土交通省の建設業許可事務ガイドラインでは、経営業務の管理責任者について、
「会社の取締役、個人事業主等、営業取引をする際に対外的に責任のある地位の人で、経営業務の執行等建設業の経営業務について総合的に管理した経験がある人のこと」
と定義しています。建設業は、大きな金額の工事を取り扱い、多くの人材を雇用し、また、取引先も数多くあるため、資金繰りや労務管理を適切に行うことができる経営者が求められています。もし、適切に建設業の経営ができず、万一倒産となってしまうと、関係する様々な人達に多大な不利益を与えてしまうことになります。
このため、建設業法では、発注者保護、建設した建物の責任という観点から、適切に建設業の経営ができる経営者、つまり、「経営業務の管理責任者」を許可の第一条件としているのです。
ここで建設業許可取得の条件7つを再度確認してみましょう。
条件① 経営業務の管理責任者がいること (←「人」に関する条件)
条件② 専任技術者がいること (←「人」に関する条件)
条件③ 誠実性
条件④ 財産的基礎条件 (←「お金」に関する条件)
条件⑤ 欠格要件
条件⑥ 適正な社会保険の加入
条件⑦ 実態として適切な営業所があること
このように建設業許可取得の条件は7つありますが、この条件①の経営業務の管理責任者は、特に「人」に関する重要な二つの条件のうちの一つです。もし、許可を取得した後に、経営業務の管理責任者が退職してしまった場合、建設業許可の条件を維持できなくなってしまい、許可が取り消されてしまいます。このため、期間を空けず後任の経営業務の管理責任者を配置する必要がありますので、計画的に経営業務の管理責任者の採用、育成をしておくことが重要です。
経営業務の管理責任者の条件とは?
→ 建設業での経営経験5年が必要です!
まず、経営業務の管理責任者の条件は、令和2年10月に改正建設業法で大きく変わっていますので、インターネットにある古い情報には注意しなければいけません(例えば経営経験については、以前は建設業29業種のうち取りたい業種での経営経験が必要でしたが、改正後はどの業種でもよいのでとにかく5年以上あればOKとなりました。)。今回は改正後の最新の条件について、ここでは詳しく解説していきます。
【経営業務の管理責任者となるための条件】
建設会社で取締役としての経営経験が5年以上あること
(建設業法施行規則第七条一イ(1))
まずは、これをしっかり押さえてください。改正後の規則ではこのほか5項目ほど新たに条件が定められましたが、許可を受ける方の多くはこの「建設会社で取締役としての経営経験が5年以上あること」の条件で取得することになります。許可を取ろうとお考えの経営者の方は、過去に建設会社の取締役として5年以上の経験があるか、建設業の個人事業主として5年以上の経験があるか、を確認してみてください。
ただし、この条件だけ覚えればOKです、とすると記事がここで終わってしまいますので、今回はその他に加わった新しい条件についても詳しく解説していきます。もし、この条件でとれないけど、そのほかの条件でとれるかもしれない、となりましたら、今回の記事を読んだ上で、最寄りの県庁の担当窓口(静岡県でしたら静岡県庁の建設業課)にまずは確認をしてみてください。
それでは、解説してきます。
「経営業務の管理責任者」の条件としては大きく分けて2つの条件になります。
①常勤役員のうち1人が管理能力を有している
②常勤役員+「補佐する者」で管理能力の体制を有している
①常勤役員のうち1人が管理能力を有している
管理能力を有していると認められるためには、常勤役員のうち1人以上が次のいずれかに該当している必要があります。(常勤役員は個人事業主である場合、個人事業主本人、また、個人事業の支配人となります。)
a 建設業に関し5年以上の経営業務の管理責任者としての経験があること(説明済)
b 建設業に関し「経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者」として5年以上の経営業務を管理した経験があること
c 建設業に関し「経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者」として6年以上の経営業務の管理責任者を「補助」した経験があること
どうですか?イメージできますか?うーん、難しいですよね…。それでは、みなさんがイメージができるよう、具体的な事例をあげてみます。
a 「経営業務の管理責任者」
・株式会社、有限会社の取締役
・指名委員会等設置会社の執行役
・持分会社(合同会社等)の業務執行社員
・個人事業主、個人事業の支配人
b 「経管に準ずる地位にある者」
取締役、執行役、業務執行社員に準ずる地位で、建設業の経営業務の執行について権限の委譲を受けた者(例えば取締役会で経営権限の委譲を受けた、代表取締役社長から具体的な権限委譲を受けたなど)。
c 「経管に準ずる地位にある者として「補助」した経験」
前記bの者で建設業に関する資金調達、技術者の配置、下請業者との契約等経営業務全般について従事した経験。
どうですか、少しはイメージできるようになったでしょうか。といっても法律用語や法律独特の言い回しはやはりわかりにくいです。今回のこの「経営業務の管理責任者」の条件は、さきほども申しましたが、ほぼ「a」と考えていただければ大丈夫です。簡単に言えば「建設業者の取締役や個人事業主の経験が5年以上ある人がいるか」ということです。この条件を満たす人が社内にいるか今一度確認してみてください。
②常勤役員+「補佐する者」で管理能力の体制を有している
続きまして、2つめの補佐する者で管理能力の体制を有している、この条件について見ていきます。
A 建設業の役員の経験※を2年以上、かつ、その2年以上の経験を含み5年以上の建設業の役員または役員に次ぐ地位での経験を有する者
※建設業の役員の経験…財務管理、労務管理、業務運営のいずれかを担当
B 5年以上役員としての経験を有し、かつ、建設業に関し2年以上役員としての経験を有する者
A又はBにプラスしてC、D、Eの経験を有する「補佐する者」をそれぞれ配置
+
(補佐する者) C財務管理 D 労務管理 E業務運営
その建設業者において、C、D、Eの業務経験を有する者をそれぞれ配置
(ただし、C、D、Eは一人が3つを兼任することが可能
こちらも難しいですね…。要するに、こちらの条件は、①の常勤役員の能力が少し不足している(①より条件が少し緩い)ので、補佐する人を配置して補完している、といったイメージになります。もう少し解説していきます。
Aについては、①で経営業務の管理責任者の条件は5年以上でしたが、最低2年プラス「役員に次ぐポスト」(○○部長等、代表権の委譲は不要)で3年経営経験あればOKという内容になっています。
Bについては、Aが役員に次ぐポストに対し、こちらは「別業界での取締役経験」でも3年以上あればOKということになっています。つまり最低5年の役員経験のうち、建設業で2年以上、残り3年は別の業界の取締役経験でもOKということです。
C、D、Eについての詳細は次のとおりとなっています。
C 財務管理の業務経験
建設工事を施工するにあたり必要な資金の調達や施工中の資金繰りの管理、下請業者への代金支払い等に関する業務経験
D 労務管理の業務経験
社内や工事現場における勤怠の管理や社会保険の手続に関する業務経験
E 業務運営の業務経験
会社の経営方針や運営方針の策定、実施に関する業務経験
以上、許可取得に絶対必要な「経営業務の管理責任者」の条件を見てきました。建設業界で不足している経営業務の管理責任者の問題に対応するため、法改正により条件が緩和されたのですが、その結果、非常に複雑になってしまったことは否めません。何度も申し上げていますが、実務では、ほぼ①a「建設業者の取締役や個人事業主の経験が5年以上あるか」という条件で検討すれば問題ありません。
今までの複雑な条件についてチャート図にまとめてみましたので、経営業務の管理責任者の条件について迷ったときは、こちらも参考にしてください。
経営業務の管理責任者の常勤性(じょうきんせい)とは?
→ 経営業務の管理責任者は営業所への常勤性が求められています!
ここまで経営業務の管理責任者に該当するか否かの条件についてみてきましたが、この経営業務の管理責任者も、専任技術者と同様、「常勤性」が求められています。つまり、役員でも非常勤の役員ではなれません。このため、この記事中では単に役員ではなく、「常勤役員」という名称でこのことを強調してきました。この「常勤性」とは、会社に毎日通勤し、経営業務の仕事に専念して従事している状況のことをいいます。下記のような役員等(補佐人も含みます)については、常勤性が認められていません。
・住居から勤務地までが遠距離であり、常識上通勤不可能な者
・他社の代表取締役(ただし、他社に代表取締役が複数いる場合は除く)の者
・他社(建設業)の専任技術者になっている者
ただし、配置技術者のように直接的雇用関係まで求められていませんので、出向者、派遣者、任期付の役員であっても、この「常勤性」が認められれば、その会社の経営業務の管理責任者になることは可能です。
なお、常勤性と関連して言えることですが、経営業務の管理責任者は社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険)へ適切に加入していることも条件として求められています。
【補足】~条件を満たしていても、それを書類で証明できるますか?~
建設業での取締役の経験が5年以上あるから、経営業務の管理責任者の条件は満たしている、他の条件もクリアできそうだから、許可が取れそうだ、と思ってしまうところですが、実際、このことを「書類で証明すること」が非常に大変な作業であり、建設業許可取得の大きなハードルの一つと言っても過言ではありません。
このことを客観的に役所に証明するために、過去の取締役期間5年分の謄本(登記事項証明書)や工事の請求書、入金確認書といった、複数の種類の、また、かなり昔の書類まで多数用意する必要があります。これらの資料が用意できなければ、せっかく取締役として5年以上の経験があったとしても、許可を取得することができないのです。書類が思うように用意できない、どの書類を用意すればよいかわからない、というような場合は、建設業に特化した専門の行政書士に相談するようにしましょう。
まとめ
今回は、建設業許可取得の最大のハードルと言われている「経営業務の管理責任者」について説明してきました。いろいろと条件はありますが、建設業での取締役としての経営経験が5年以上あるか、個人事業主として5年以上あるか、また、このことを証明する書類を自社で用意できるか、一つ一つ丁寧に確認してみてください。また、許可が取得できたとしても、何らかの事由で経営業務の管理責任者に欠員がでることも考えられます。そのような事態に備えるために、候補者の採用、育成、また、外部からの招へい等により計画的に候補者を複数人確保するなどの対策も着実に進めていきましょう。